2007年4月10日、名古屋のボトムラインでアラン・ホールズワースとアラン・パスクァの双頭バンドによる公演を観た。
二人は<ニュー・トニー・ウィリアムス・ライフタイム>でのバンド・メイト。初のソロ・アルバム『ベルベット・ダークネス』や『サンド』でも共演。
ドラマーは、ホールズワースの片腕ともいうべきチャド・ワッカーマン。そして、おそらく初共演のジミー・ハスリップ。イエロー・ジャケッツでお馴染みのレフティ・ベーシストだ。前年2006年からのプロジェクトのようで、その年のライヴは映像作品になっている。
今回の双頭プロジェクトは、二人の出身バンドのリーダーである故トニー・ウィリアムス(1997年、51歳で死去)のトリビュートという事もあってニュー・ライフタイム時代の曲(1枚目の『Believe It』のみだが)も演奏された。ホールズワース作の「フレッド」、パスクァ作の「プロト・コスモス」、当時のベーシストだったトニー・ニュートン作の「レッド・アラート」。
'70年代のニュー・トニー・ウィリアムス・ライフタイムでは、ホールズワースを超絶早弾きのギター・ヒーローとして打ち出していたバンドだっため(その前に在籍したソフト・マシーンでも同じく)、アラン・パスクァは、どっちかというとバッキングの人というイメージがあった。しかし実際に観た双頭バンドでのパスクァは、非常にワイルドで、歪んだエレピやオルガンでガンガン攻めていた。カルロス・サンタナ等との仕事や<Giant>というハード・ロック・バンドを結成したりと、結構ロック系の人だったというのを後で知った。ボブ・ディランの『武道館』のキーボードもアラン・パスクァだったとは…。
一方、ホールズワースは元々バッキングを弾く事が少ないので、パスクァのソロになると、まるでトリオ演奏のようだ。
トニー・ウィリアムスは、マイルス時代から自由奔放でパワフルな演奏で知られる。バックで支えるというよりは、フロントを煽りまくるドラミング。
一方ワッカーマンは、延々ソロを叩いているように音数が多いながらも、いつも冷静で律儀なプレイが身上。フランク・ザッパのような展開の激しくユーモアに溢れた演奏のバックでも冷静沈着だ。(タイプ的には神保彰に近いか?)
ところが、パスクァにトニー・ウィリアムスが憑依したかのように熱く煽り始めると、冷静なワッカーマンでさえ疾走気味になる瞬間がある。
このプロジェクトをきっかけにホールズワースと組む事が多くなるジミー・ハスリップも結構アグレッシヴ。それでいてメンバー中では一番ジャズ色が濃い。ハスリップの存在がなかったら、ハードでファンキーなプログレになっていたかも知れない。
そんなメンツに囲まれたホールズワースは、いつもよりリラックスしているように見えた。しかもパスクァが全面でバリバリ目立っているので、苦手なスポットライトも気にしなくていいし、ずっとアンプの前に立っていられる(笑)
この頃になると、音色も円熟の極みに達しており、電気的な冷たさがなく、早弾きの瞬間も信じられない程なめらかで艶がある。力強いが荒々しくないスムーズな音色が心地よい。この時のギターは、プロモーターで写真家の中村氏の記事によると、完全なオリジナル・ギターで、YAMAHAの職人John Gaudesi氏による“フル・カスタム・メイド”だったそうだ。しかも、この2007年ツアーでしか使われていない。※詳しくは中村氏の「A.ホールズワースが見た未来」の記事をご覧ください。
独特なバッキングも健在だが、今回はパスクァとのミックスで聴けたのが興味深かった。浮遊感のあるシンセ的なホールズワースの音色と、割とハッキリとした強い音のパスクァのエレピやオルガンと混ざると、普段聴いている音とは違ってとても新鮮(『Live at Yoshi's』では、パスクァの音がバランス的に大きいのが残念…)。特に『アタヴァクロン』
収録「ルッキング・グラス」のテーマ部分が、まるで新アレンジのように聞こえる程(オリジナルはホールズワースのシンタックス)。
ホールズワースvsパスクァのパワー・バランスと、彼らを支える絶妙なリズム隊。円熟したホールズワースとパワフルなパスクァの音色がミックスされた全体の音が、いつもと一味違ったサウンドになっていて、この“音世界”に浸るのが快感。いまだに強く印象に残っている素晴らしいステージだった。
by Kay-C
Ptoto By naoju5155nakamura
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