1973年、当時中学3年生だった私は「英会話を勉強したい」との理由でLL機能(片チャンネルに手本となる音声、もう一方のチャンネルに自分の声を録音消出来る)のラジカセを親にねだって買ってもらった。しかし英会話にはほとんど活用されず、もっぱらエアチェックに使用。片っ端から好きな曲、気になる曲を録っていった。
今は切れてしまって聞けない120分のカセットテープには、ミッシェル・ポルナレフ、浅田美代子、エルトン・ジョン、井上陽水「夢の中へ」のライヴ・ヴァージョン等々節操なく雑多な音楽が収まっており、そのテープのA面冒頭に録音してあったのがフォーカスの「悪魔の呪文(Hocus Pocus)」だった。確か邦題では紹介されず、長い間“フォーカス・ポーカス”と曲名を間違えて覚えていたのだが、とにかくこの異様で風変わりなハード・ロックが、私にとって能動的に聴いた初めての洋楽だったのだ。
当時は、EL&Pやイエスなどプログレ・バンドがヒット・チャートや音楽雑誌の人気投票で上位に並んでおり、オランダのバンド<フォーカス(Focus)>も、この「ホーカス・ポーカス」がきっかけで世界的にブレイクし始めていた。イタリアのP.F.M.と共にユーロ・ロックの開祖と言えるだろう。
この「ホーカス・ポーカス(Hocus Pocus)」が収録されたセカンド・アルバム『ムーヴィング・ウェイヴス(Moving Waves)』の次のアルバム『3』
が、日本では最初に発売されたアルバムだそうで、それに合わせて「ホーカス・ポーカス」の編集ヴァージョンのシングルがラジオで紹介されていたのだ。(テンポ・アップした再録ヴァージョンとは別)なので後に、アルバム『ムーヴィング・ウェイヴス』
が1971年の作品だと知った時は少々驚いた。
アルバムを通して聴いたのは暫く経ってからだったが、とにかく完成度が高い作品だと思った。クラシック、ジャズ、ロック等の要素がバランス良く自然に混在しているのが良い。
ハードだがコメディ・ソング一歩手前の「ホーカス・ポーカス」ではHR/HMの教科書のような早弾きギター・ソロとリフ(ブラック・サバス「血まみれの安息日(Sabbath Bloody Sabbath)」の原型になったというのは都市伝説?)を聴かせるヤン・アッカーマンとフルート・ソロやヨーデルが超個性的なタイス・ファン・レールは曲芸士というか大道芸的でもある。
一転してアコースティックでクラシカルな静寂な中世の時代を奏でる宮廷音楽家に変身。
そして旧B面を占める「イラプション(Eruption)」は、超尺のプログレ名曲としてはイエスの「危機」と並ぶ名作と思う。荘厳なオルガンとヴァイオリン奏法のギターによる「Orfeus」から幕を開け、続く「Answer」で荒々しく呼応する。これらを繰り返しながら時には泣きのギターを挟みながら次第に“噴火(Eruption)”へと向かう…。クラシカル風味のジャズ・ロック組曲とでも呼べば良いか。名手ピエール・ファン・デル・リンデンのドラム・ソロも素晴らしい。
フォーカスは、自分の中で音楽性とイメージ共にプログレの中心として位置付けられる事になったのだ。
by Kay-C